池の淵に佇む少女の後ろに立つのは二つの人影。

「やはり往かれるか、星姫」

 抑揚のない声は男のものだと直ぐに分かる。

 少女はそちらを見ず一つ頷く。

「そこへ往かれても逢えるとは限らぬぞ」

 続いて発せられたのは同じように抑揚のない女の声。

 首肯した少女はそこで初めて振り向いた。

 長かったであろう癖のない濃紫の髪は邪魔にならないよう腰あたりで切られている。

 静かな双眸の中には確かに輝く決意の光が輝く。

「それでも往かねばならないのです。・・・星と龍神の導きがそこを指す限り、私は一族としての役目を果たさなければならない」




 先日垣間見た夢。








 風に靡く髪。









 蒼と翠の兄弟。








 二人の護られ、護り笑う少女。







 傍らに存在する、神。








「何時の時空か、何時の時間なのか分からない。それでも、此処にいないのは確かなのです」

 だから止めるなと訴えてくる少女の目に、二人は溜め息落とした。

「諦めろ、斎殿。星姫は言い出したら訊かぬのは幼い頃からだ」

「・・・知っているから頭が痛いのだ、篁の」

 額に手を沿え首を振る青年に笑う女性は、先程とは違った感情の篭った声で少女に向けた。

「姫、そなたが往くと言うのなら我等も行こう」

 紡がれた言葉に驚愕で目を開いた少女に青年も苦笑いを浮かべる。

「我等も姫と同じく神子在っての存在。貴女が往かれるのなら、我等も往くのが道理」

 目を瞬かせる少女の前に二人は片膝を折り続けた。




「我等応龍の神子。白の神子と黒に神子の為に在る者」




「鎮神として、御影の役目を担う者」





「此の命は、全ては御神子の為。全ては、彼の存在の為ーーー」
























 その為ならば、此の命・・・御影として差し出す所存也。

















































 黄昏時。

 一日のニュースを伝えるテレビの前に陣取っていた少年の後ろに立った少女の手が、そのまま平手となりいい音を立てた。

「った」

「何時までテレビ見てるのさ。手伝ってよ」

 シックな紺のエプロンを纏い立つ少女に、少年は憮然と口にした。

「俺に料理をさせる気か。チャレンジャーだなぁ・・・悠」

「料理以外の手伝いをしろって事だよ、千快」




 斎千快と篁悠。

 二人は俗に言う親戚というものだ。

 親戚と言っても血が繋がってるのかどうかさえよく分からないので、幼馴染といった方がいいのかもしれない。

 斎家と篁家合わせて「応龍の神子」と呼ばれる一族らしいが、本人たちはよく分かっていない。

 とにかく同い年で家も隣同士だったが、今は訳あって悠が斎家にお世話になってるのもあり幼馴染の粋を通り越し、今では兄妹に近いのかもしれない。




 頭を掻きながら台所へ足を踏み入れた瞬間、千快の顔が顰められる。

「・・・魚、だぁ?しかも・・・煮魚ぁ?」

 声音に険が含まれる。

 それを真後ろで聞いていたにも拘らず涼しい顔の悠は首肯した。

「相変わらず魚嫌いだね」

 基本的に二人は好き嫌いをしないのだが、例外が一つ。

 千快は魚・・・特に煮魚が嫌いだった。

 刺身は平気だし、焼き魚も目を瞑れる。

 だが、どうしても煮魚だけはダメだった。

 毛を逆立てた猫のようにテーブルに鎮座する煮魚を睨む幼馴染を他所に、悠は忙しなく鍋をかき混ぜる。

「なー、煮魚嫌だー」

「だめ」

「俺、他のがいいー」

「却下」

「悠さーん。食べたいなー」

「煮魚があるでしょう」

「俺に死ねってか?!」

「それくらいじゃ死なない死なない」

 後ろから抱きつき文句を述べる千快を流しながらも器用にご飯を盛り、他の家族の分にラップをかける。

 とは言っても、千快の母しかいないが・・・。

「なーなー、はーるーかー」

「何時までも子供じゃないんだから・・・食べなよ」

 ダラリと腕を少女の方に巻きつける千快は心底嫌と訴える。

 魚のときはいつもそうだと内心溜め息を落とした悠はエプロンを外した。

「ほら、いい加減諦めて食べ・・・」








 その言葉は、途中で途切れた。









 突然だった。

 狭くもなく広くもない台所面した庭に繋がる窓が開いた。

 そこから風が吸い込んでくる。

 はっとした二人はそちらを見て絶句した。

 大きく開かれた窓の外には、ぽっかりと口を空けた謎の歪み。

「んな・・・っ」

「なに、あれ?!」

 強く吸い込もうとする力に耐えながら二人は唯驚くしかなかった。

 足を踏ん張りながらも考えられない力で吸い込まれていく。

「ち、はやっ」

 女である悠は千快より軽く力がない為必然的に引きずり込まれる。

 必死に幼馴染を抱き寄せた千快の目は周囲を巡らせ言葉を漏らした。




「な、んで・・・なんで」




 これだけ自分たちが吸い込まれているのに、周りのテーブルや鍋・・・全ての物は1ミリも動いていないのだ。

 そんな馬鹿な・・・っ。

 周囲に気が散った一瞬の隙だった。

 耐え切れなくなった悠の足が滑り、一瞬にして宙に浮く。

「はるかぁっ」

 ズルリと掴んでいた手がすべる。

 慌てて掴み直そうとした千快と恐怖で顔を歪ませた悠の目に強烈な光がさした。




















 フワリと風が吹く。

 誰もいなくなった台所。

 在った筈の二つの影は、今まで誰も居なかったかのように何一つ残さず消えた。













***********



 遂に始まりました。
 未だ二人のキャラクター性を書ききれずに居る為、多分つかめていないでしょうが・・・(汗)
 簡単に言ってしまえば・・・

・千快・・・しっかり者でさばさばしているが、悠には凄い甘えた。
・悠・・・しっかり者だが寂しがりや。

 ・・・話が進んでいくうちに書いていけたらなぁと思います。
 オリキャラで夢でもなんでもないですが、是非とも千快と悠を可愛がってやってください。














 
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