瞼に焼きついたのは、彼の手。
1 ー悠編ー
御簾を上げ月見酒をしていた知盛と重衡を強烈な光が襲ったのは、満月の次の夜だった。
突然の事態に咄嗟に手で目を庇った二人は、少し間を置き恐る恐る手を外す。
シンとした変わりない空気に何だったんだと首を傾げた兄弟は、刹那目を瞠った。
先程まで静かだった池の水面がまるで何かが落ちたかのように波打っているのだ。
そして、波打つ水面の中心には沈み行く「人の手」。
「兄上っ」
高欄を飛び越え素足で降り立った兄を重衡は追う。
「すぐに引き上げるっ」
着崩していた直衣を引き千切る勢いで抜いた知盛は池へ飛び込んだ。
然程深くない池底に沈む一つの人影。
腕を後ろへと掻き分けぐんっと前へ進み漂う手を掴む。
しっかり掴めたのを確認した知盛は水の力を借りて相手を自分の腕の中に収め、そのまま水底を蹴り水面へと上がった。
池淵に座って待っていた重衡は兄から相手を受け取り引き上げる。
力なく上げられた相手の顔が、月光で照らされた。
脱ぎ捨てられた知盛の直衣で相手を包み込んだ重衡は、その顔を見た瞬間驚愕する。
水で肌に張り付き重くなった髪の色は黒。
月光でも分かるほどの白い肌。
そして、幼さを残す―――少女の顔。
「少、女?」
薄い紗を幾重にも体に巻きつけただけの姿の少女が、何故突然池に落ちてきたのか。
大体、どうやってここに入ってきた?
困惑する重衡に水から上がった知盛が口を開く。
「取り敢えず、温めないと拙い」
水に入っていた時間は長いわけではない。
しかし少女の体は信じられないほど冷えている。
そうですねと頷いた重衡は少女を横抱きにし立ち上がる。
ポタポタと落ちる滴が重衡の狩衣を染めていく。
「一番近い私の部屋でいいでしょう。―――誰かっ」
今度は階から上がった重衡は廊下に向かって声を上げた。
数瞬して彼付きの女房が局から姿を見せた。
年若いわけではなく壮年まではいかない、三十代後半の彼女は直ぐ様膝元で頭を下げる。
「お呼びで御座いましょうか」
「直ぐに私の部屋に女性の着物と拭く物、女房を」
何時もは落ち着いている主の慌て振りに思わず顔を上げた彼女は、次にその腕の中に居る人物に目を瞠った。
重衡の狩衣が水を吸い色が変わってきているということは濡れているのだろう。
だが、何処から?
「絹依、早く」
呆然としてしまった女房・・・絹江は主の声にはっとし慌ててきた道を引き返した。
「兄上も早くお着替えください」
少女同様全身水濡れの知盛は自分の横で腕の中を覗き込んでいる。
彼にしては珍しく、人を心配しているらしい。
気持ちは分かるが幾らなんでもこのままでは風邪を引いてしまう。
促された知盛の眉間は一瞬皺を寄せるが反論す理由もないので踵を返した。
一人廊下に残った重衡は濡れるのにも構わず自分の部屋へ足を踏み入れた。
奥にある寝台に少女を寝かせれば力なく放り出される小さな手。
部屋の明かりを点けなければと立ち上がった重衡は、くんっとなにかに引っ張られるのを感じ中腰で止まる。
その元を探すように眼を向ければ裾を握る少女の手。
「……、…っ」
驚く重衡の耳朶を打つ小さな・・・漏れる息に少女を見れば目尻から流れる別の滴。
「・・・ゃ、やぁ・・・っ」
魘される少女の手をとった重衡はなるべく安心するよう声音を落ち着かせる。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
『大丈夫だ。大丈夫だよ』
「一人じゃありません。だから、泣かないでください」
『一人にしねーよ。だから、泣くなよ』
「―――ちはや」
被る声を聞いた。
何時も不安なときに助けてくれる、大切な人の声。
千快
ちはや
たすけて、ちはや
***************
悠編です。
てか、悠の名前出てないじゃん(ギャフン)
悠編は平家・・・知盛と重衡中心です。
銀じゃないですよ?重衡です。
次回、悠・・・話すと思います(ぇ)
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